活動報告

平成24年九州北部豪雨による阿蘇山の土砂災害

2012.09.03 研究/調査

平成24年(2012年)7月11日から14日にかけて九州地方北部の熊本県・大分県・福岡県で記録的大雨があり、気象庁は「平成24年九州北部豪雨」と名づけました。阿蘇市一の宮町地区では土石流により多くの家屋が倒壊し、多数の犠牲者がでました。(株)防災地理調査では、地理情報システム(GIS)を用いて、阿蘇市一の宮町地区の土砂災害と地形・地質・雨量等の関連性を検討しました。
11日~14日の期間雨量が最も多かったのは熊本県阿蘇乙姫の816.5mm、次いで大分県椿が鼻の656.5mm、福岡県黒木の649mmとなっており、黒木でのこの期間の平年値は378.5mmですから、平年の約170%の降雨があったことになります。阿蘇乙姫での雨のピークは12日午前、黒木では14日にピークがあり、強い雨域が南から北へ移動したように見えます。これに連動するように、阿蘇山域では12日午前に崩壊・土石流が発生し、福岡県黒木では14日に土砂崩れが発生しています。なお、阿蘇山域での土砂災害の発生時刻は、読売新聞(7月12日)、熊本日日新聞(7月12日)によると12日午前5時頃から6時頃にかけて、と考えられます。

 

 

図1 阿蘇火山の南西側から眺めた鳥瞰図です。白線で囲んだ範囲で崩壊・土石流が多発しました。
標高データは国土地理院作成の基盤地図情報(数値標高モデル)10mメッシュを用いました。こ れにランドサット画像を重ねてあります。使用したランドサットデータは1990年9月撮影のもので(p112,r037)、バンド4に赤、バンド3に緑、バンド2に青を割り当て、フォールスカラー合成をしました。この図では植生の有る部分は赤色に、裸地や都市部は灰色に見えます。

 

 

図2 7月12日午前9時の天気図(気象庁発表)です。東北地方南部から対馬海峡を通り中国東部にかけて発達した梅雨前線が連なっています。この梅雨前線に向かって湿った空気(湿舌)が流れ込んだため九州地方北部では豪雨となり、気象庁は九州北部で短文気象情報「経験したことのないような大雨」を初めて発表しました。

 

 

 

図3 九州地方での7月11日・12日の雨量です。気象庁のアメダス等の資料から作成しました。阿蘇山付近で最も雨量が多く、400mmを超えています。熊本県南部の天草上島から九州山地にかけての範囲では300mm以上、薩摩半島南部から大隈半島にかけての地域でも2日間で200mm以上の雨量が観測されています。

 

 

 

図4 7月11日・12日の阿蘇山周辺の雨量です。雨量の多い観測地点は阿蘇山を通る東西方向にあります。阿蘇乙姫が最も多く508mm、阿蘇山393mm、菊地327mm、竹田253.5mmを観測しています。阿蘇山から南北に離れた観測地点では急激に雨量が減少し、南小国135.5mm、山都81.5mm、高千穂84.5mmとなっています。湿った空気が西から東へ流れ、阿蘇山にぶつかり活発な雨雲を発生させたものと考えられます。

 

 

図5 阿蘇乙姫における、時間雨量と雨が降り始めてからの累積雨量のグラフです。阿蘇山周辺では11日13時から降雨が観測されていますが、阿蘇乙姫では崩壊を発生させた一連の降雨は14時から始まっています。12日午前1時頃から雨が強まり、午前3時には時間雨量106mm、崩壊が発生した5時には95.5mmを記録しています。累積雨量は崩壊が発生した午前5時までに370mmに達しています。

 

 

図6 阿蘇山の雨量です。阿蘇乙姫と似た傾向を示します。時間雨量の最大は午前4時の89mmで、崩壊が発生した5時は54.5mmの降雨が観測されています。降り始めから午前5時までの累積雨量は224mmに達しています。

 

 

図7 阿蘇乙姫における6月中旬から7月下旬にかけての日雨量です。九州北部では、6月中ごろから梅雨前線による断続的な強い降雨がありました。阿蘇乙姫では6月16日に日雨量176mm、24日には207mmを観測 しています。この梅雨前線の降雨により、土中の水分が増加していたことが崩壊の誘引の一つと考えらます。

 

 

図8 阿蘇カルデラ北東部付近の地質と崩壊分布図です。崩壊地は国土地理院のオルソ画像を判読し抽出しました。地質は地質調査総合センター発行の火山地質図「阿蘇山」を編集しました。崩壊は溶結凝灰岩 に多く発生しています。溶結凝灰岩はカルデラ壁の急崖を形成しているため、崩壊が発生しやすいものと考えられます。火山灰はカルデラの外側斜面を覆って堆積しています。外側斜面には無数の浸食谷が発達し ており、この谷に面する斜面で崩壊が発生しています。

 

 

図9 阿蘇カルデラ北西部の鳥瞰図です。図中、赤は崩壊地、青は土石流、水色は泥流・洪水流を表しています。
急斜面で崩壊が発生し、崩壊土砂が土石流となって谷底を流下しています。土石流は傾斜の緩やかになる崖錐や沖積錐で停止し、泥や砂など細粒物質を含んだ水はさらに下流まで流下しています。

 

 

図10 阿蘇市一の宮町の土砂災害。基図は基盤地図情報10mメッシュを用いて作成した傾斜区分図です。東手野、古閑、阿蘇品、野中、北坂梨、鬼塚などで土石流による被害が発生しました。家屋倒壊、人的被害の 発生した集落も多く有ります。

 

 

図11 傾斜25°以上の斜面を黄色で示しています。崩壊は傾斜25°以上の急斜面と遷急線付近で多く発生していることがわかります。

 

 

図12 傾斜と崩壊地の関係を示すグラフです。崩壊は30°~40°の斜面で最も多く、次いで20°~30°の斜面で多く発生しています。20°以下の緩斜面での発生も多く有りますが、火山灰に覆われた緩斜面で多数崩壊しているためです(図8)。

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